中田永一著作「私は存在が空気」の感想!(ネタばれあり)
中田永一さん名義の「私は存在が空気」がやっぱり乙一さんぽくて面白いです。
超能力を題材にした短編集です。
ドラえもんの絵柄に変換されてしまうのあります(笑)
あらすじ
内容紹介
存在感を消してしまった少女、
瞬間移動の力を手に入れた引きこもり少年、
危険な発火能力を持つ木造アパートの住人……
普通じゃない私を、受け入れてくれるのは誰?
どこかおかしくて、ちょっぴり切ない【超能力者×恋物語】
《この世界で、たしかに生きていると信じたい――》
そこらへんに落ちている石ころのように人畜無害で、存在感のない人間、鈴木伊織。
彼女がこんな存在に成長したのは、生きるためだった。
鈴木伊織のことを認識できるのは、友人の春日部さやか、ひとりだけ。
そんな不思議な力を持つ彼女は、春日部の話をきっかけに、上条先輩のことを知る。
かっこいい先輩は、バスケ部で主力選手として大活躍。
気になった鈴木伊織は“体質"を活かして、こっそり彼のストーキングを始めたが……
――「私は存在が空気」より
表題作を含む、“すこし不思議"なラブストーリー6編を収録。
Amazonより引用。
感想
中田永一さん名義で書かれた超能力を題材にした短編集。
別名は乙一さん名義ですが、中田永一さんは十代のラノベ寄りで、オチが爽やかな話を書かれている気がします。
「少年ジャンパー」
「ジャンパー」という映画がありましたが、それと同じくある日、瞬間移動ができるようになった少年の話。
どうして、できるようになったかは書かれておりません(笑)
トイレに行きたかった日に、気づいたらトイレだったみたいな説明がありました。
この話は、それを書かなくても成り立ちます。
主人公は学校では浮いた存在です。顔が気持ち悪いからとか書かれてますが(一人称)、本人の自身のなさからくるものだったのかもしれません。
家でひとりでゲームばかりして、妹からいつも気持ち悪がられてます。
そんな中、能力を知った綺麗な女性の先輩と仲良くなります。彼の能力を知ってしまった先輩は、彼氏が東京で浮気してないか、チェックするのに付き合わせます。
先輩のことを好きになり始めていた彼にとって、ちょっと切ないです。
私の中で、芸人の草薙が浮かびました。そのくらいネガティブでしたが、先輩と出会って、海外まで行ってジャンプのための足跡つけるために一人で旅をしたり、いじめとかありますが、彼にとって、そんなことは些細なことになっていきます。
とてもさわやかで、世界が美しく広いことを思わせてくれる作品でした。
この話は方言がある地方が舞台で、登場人物たちの話し方がかわいい。
「私は存在が空気」
タイトルである本作。
父親の暴力から気配を空気中に散らし、完全に消すことができるようになった女の子が友達のために頑張る話。
オチには気づきませんでした。
でも父親に暴力をふるわれていたことや、婦女暴行事件の真相を知る、ということも伏線たのかもしれません。
はらはらするシーンもあります。痛みがあるときは、存在を消すことはできないようですね。リストカットをして存在の意味を見出す、ということはそういうことかもしれません。
短いながらも色々な問題をはらんだ話でした。
「恋する交差点」
めちゃ、短いんですよ、この話。
スクランブル交差点わたっていたら大事な人と手をつないでいたのに、全く別の人と手
つながってしまう現象に悩まされています。もしかしたら結婚できないかもしれないという不安もありましたが、もみくちゃになっても絶対離さない、という意思でなんとか交差点を渡りきる話。
おそろしい交差点。
本当に、様々な困難が交差点を渡っていた時あります。アニメ化したらとても痛々しく激しいシーン。でも感動すらあります。
短くても濃いですね。
夜は短し、歩けよ乙女とかアニメ化したところがやると合っていそう。
「スモールライト・アドベンチャー」
スモールライトって言ってるじゃん(笑)
ちゃんと後付けで、藤子先生のスモールライトから着想を得ましたと注釈ついてました。あのスモールライトが出てきます。
家にありました。電気が切れて間違って使ってしまいます。
そんな中、スカートめくりさせてくれない令嬢の誘拐事件発生。
私の中で完全に藤子先生の絵で物語が展開していきました。
小学生視点でわくわく、はらはらする話。
単純に面白かったです。
「ファイナルスターター湯川さん」
パイロキネシスという能力をもった、湯川四季さんがアパートに引っ越してきます。
主人公はすごくボロイアパートの管理人をしている大学生。両親は死んでいます。
能力は、熱や炎を自由自在に操れます。
めちゃくちゃお金持っているのにアパートにやってきたのは理由があります。
アパートに住んでいる住人がとても個性的です。
凪のお暇を思い出しました。本作は彼女の絵でコミカライズ希望。
舞台は雪が多い地方ですが、とても暖かい人情味ある話でした。
とある組織の殺し屋とか、物騒な話とか出てきます。
超能力戦闘シーンが熱い。
私は、湯川さんのファンになりました。かっこいいですね。
一番好きです。住人も好き。
「サイキック人生」
見えない手を使うことで、離れたところにある物を浮かせたりできる能力がある一族の話。
隠れて生活していて、もしばれたら結婚とかしないと知った相手は消すこともあるそうです。
他人に「天然」として馬鹿にされることが多い主人公の女の子は、幽霊騒ぎを起こして霊能力があるフリをします。
そこで蓮見恵一郎というオカルト好きなボッチと仲良くなっていきます。
これも些細な出来事が、違う事件に発展していく話です。
私も人から「天然」と言われてしまうことがあります。
不本意です。
でも、たった一人でも知ってくれる友人がいたら、割り切って周囲と付き合っていくことができそう。
この能力なんて意味がないし、普通が良かったと思っていましたが、一人を救うことができて、とてもいいオチでした。
親戚のお姉さんが妊娠してて、最後、生まれた赤ん坊で終わるシーンもテーマと合ってて前向き。
当たり前ですが、無駄な描写が一切ないですね。
まとめ
どの話も十代の切ない孤独や悲しみをにおわせてますが、コミカルに描いてます。
暗めの背景がありつつも、私たちは生きていく、生きていける、と希望を見出せる話が多いです。読後が本当にさわやか。
さくっと読めます。
面白い話が読みたい方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。