谷瑞恵さん著、「額装師の祈りー奥野夏樹のデザインノートー」の感想!
あらすじ
事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。彼女の元には風変わりな依頼ばかりやってくる。
宿り木の枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット、そして――。
夏樹は額装の依頼品を通じて依頼人の心に寄り添い、時にその秘密を暴いていく。
表具額縁店くおん堂の次男坊・久遠純は、そんな夏樹の作品の持つ雰囲気に惹かれ、やがて彼女自身にも興味を持つが。
五編の連作集。『額を紡ぐひと』改題。
新潮社HPより引用。
感想
額をつくる人の話とは珍しいですよね。
谷瑞恵さんは、妖精ものが流行る前に妖精ものを流行らせた実績がございますので、今回も別の作品「異人館画廊」関連から、額縁に焦点をあて、新たなジャンルを生み出したのはさすがだな、と思いました。
絵を描く人の物語はたくさんありますが、額縁の意味をこんなに深く考えたことはなかったです。
今回のお話は額縁をつくる職人、奥野夏樹さん、和風の額縁をつくるくおん堂の次男坊、久遠純、カレー屋の主人で物語が展開します。
え、カレー屋の主人? って思ったでしょう。
私も思いました(笑)
なので、この人の立ち位置がわからず、三角関係のあてうまなのだろうかと思いながら読んでました。
違うんですね。
バラバラだった要素が5つの依頼人の短編で、見事に複雑な糸の絡みがほどけていく展開なんですよ!
主人公、夏樹は依頼人が『何を』を額縁に入れたいのか、その依頼の本当の意味を探って額縁をつくります。
それは、まるで心の中、本人すらわかっていない奥深くを丁寧に探っていくのです。
宿り木を、小鳥の声を、いたはずの妹の記憶と結びつく毛糸を、臨死体験を描いた絵を、カレーポットを……。
人間の闇の部分、弱い部分を描いた話だったと思います。
静かで静謐、ともすれば地味なのですが、額という名の祭壇にまるで祈りをささげるような物語なんです。
読み終わったあと、静かにひとりで感動しました。
色や風景が浮かぶお話なので、ぜひ本作も映像化してほしいなと思いました。
(よく言っていますが)
婚約者がいた主人公、夏樹とくおん堂に次男。
この二人の距離感が段々縮んでいく過程も素敵でした。
プロミスシンデレラの絵柄が浮かびました。
不器用な純さんがかわいいです(笑)